組織心理学が提案する職場の向上

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会社の健康は社員のパフォーマンスにかかっています。高いパフォーマンスには社員の心身健康が必要であり、個人の心身健康はモチベーションを含む精神と認知的能力を含む肉体の統合が必要です。このことについては、組織心理学(Industrial/Organizational Psychology)の分野で学ばれます。そこで出てくるマズローの5段階欲求を基に、ここでは職場あるいは会社経営におけるワークパフォーマンスについてを探求してみます。


マズローの5段階欲求は舞台をオフィスにして縮小されます。生理的欲求が満たされるよう衛生はしっかりすること。福利厚生をしっかり与えること。人間関係の問題を減らすこと(意地悪・いやがらせの排除)。こなした仕事に報酬を与えること。という具合になります。
以下はこれらの欲求が満たされることを重ねながら、ネガティブな連鎖を起こさないための具体的なポイントの例です。

  • コーヒーメイカーを撤廃しない
  • (生理的欲求+愛情・属性欲求)
    経済が厳しくなると家庭でも同じですが、「いらないのでは?」と思うものの予算から削られていきます。
    会社での経費削減で、職員に提供していたコーヒー及びお茶等が廃止されたなんて聞くことがあります。
    職員はこの会社側からのサービスをいつもそこにあるものとして認識するため感謝の度合いが低い傾向にはあるのですが、感謝という目に見える意識より、目に見えずらい機能性は高いのです。
    会社においてお茶のみ場というのは、砂漠のオアシスの役目を果たしています。喉の渇きを潤すという生理的欲求が満たされるという点、席を立って気分転換ができるという点、そして雑談したり人との触れ合いが可能になるという点で環境を滑らかにする機能があります。
    人間の集中力は子供で45分、大人で90分が限度というのが認知的研究の結果です。だからこそ学校がこのように区切りをつけているわけですが、職場でも応用されるとタスクパフォーマンスが上がります。 個人で受け持つ仕事の区切りに差がありますから、会社全体で「ハイ、休憩時間」というような設け方はしない方がよいですが、コーヒーやお茶が得られる場所を設けてあると個人が勝手にやってくれます。


  • 制服をどうにかする
  • (安全性欲求)
    身に着けるものは人間の気分だけでなく役割意識を変化させる作用があります(Zimbardo)。よって制服を支給し、会社の一員としての意識を芽生えさせるのにはもってこいのアイテムとなります。
    しかしながら身に着ける物が及ぼす心理変化を十分に理解しないところでは、「制服を着るのが普通だから」的に制服業者のカタログから適当に選んだりという行動が見られます。
    制服はおおかたリサイクルプラスチックから出来上がったのではと思われる素材が使われ、通気性は悪く、夏は発汗にも対応せず、冬は防寒にもならず、着ている方は不快です。職員の方も決められているから仕方がないので当たり前のものとして取り扱いますが、不快感は個人が意識しなくてもストレスとして脳で感知されています。どれだけ小さくても、毎日長時間に渡るストレスは塵が積もって山となり、認知作業能力を落とします。認知作業とは記憶関連に限らず、タイピング速度や注意力など頭を使うことは全て含まれます。ワークパフォーマンスを妨げるものは限りなく排除していくことが好ましいです。
    また、身に着けるものに気分を良くすることは、自己への評価すら上げる効果があります。女性がお気に入りのネイルアートで自信が湧いてくるのと同じ仕組みです。離職率の高い職場では特に制服に問題がないかもう一度見直しをし、快適なものを選ばれるとよいです。


  • 一丸とならない
  • (自尊欲求)
    会社の伸びを訴えるにあたり、「わが社一丸となって」という考えがどの会社にも当てはまるものではないことを自覚すること。
    集団主義文化を有する日本では、職員一人一人は会社の顔です。が、行っている各自の仕事は各自に責任を持たせるべきです。
    会社の名前という傘下で自己の能力を表現する自信のない職員は採用しないこと。適材適所を徹底させることは、職員個人の自己表現欲が満たされるとともに個人としての認証欲求が満たされ自尊心が育つため、それ自体で報酬となり気分が良くなります(intrinsic motivation)。脳の報酬系がスイッチオンになるともっともっとという気持ちが湧くため、おのずとワークパフォーマンスレベルが上がります。更に職員の生産力に見合った褒美を与えることは仕事意欲を向上させます(extrinsic motivation)。少なすぎても不満の素になりますが、褒美は多すぎても逆に個人の内側からくる仕事意欲を下げる効果(overjustification effect)があるので正しい評価が必要とされます。
    また、チーム及びグループでの共同作業は個人の頑張りの賞賛はメンバー全員へと分散します。この状況は「自分がやってもやらなくても」という意識を育てやすく、おさぼりさんが出てしまうという傾向(social loafing)があります。おさぼりさん人口のパーセンテージを引き上げてしまうことをなくす上で、個人のパフォーマンスに対し個人に報酬を与えることは大変意味のあるものとなります。


  • 人間関係のゴタゴタを無視しない
  • (安全性欲求+愛情・属性欲求)
    会社側からすると、職員の個人的なゴタゴタには関わりたくもなければ、「関わる必要がない」という意見が台頭かと思います。
    しかしながら、日本のコミュニケーション文化と女性のストレス除去策を考慮した場合、ストレスの多い環境では会社が対策を設けないと意地悪や嫌がらせの温巣となり得ます。
    セクシュアルハラスメントはもっての他ですが、モラルやパワーハラスメントも会社の風紀を乱します。ワークパフォーマンスを妨げる行為は会社の成長を妨害するものですので、ハラスメント除去は経営マネジメントの一環となります。男性は特に他人の感情面の処理(嫁姑問題しかり)が苦手な傾向にありますが、感情論ではなく危機回避能力及び問題解決能力が問われていることに焦点を当てるようにします。

以上です。
尚、会社にもパーソナリティーがあり、社員一丸となって集団主義として機能する方が適している場合もあります。 自分の持ち場仕事を遂行しながら他のメンバーの仕事の進行具合を把握し、アシストが"言葉なし"でもできたり逆にしてもらえたりして、ワークパフォーマンスが全体として持ち上がります。このような環境は職人技が関わる職場でよく見られます。


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